フィッシングラインの科学(1):ラインの変遷

私の専門は二つ、当たり前に「釣り」、そしてテキスタイルサイエンス、即ち、着物や繊維などの事です。
なので、釣りとこの繊維科学が会う所が「釣り糸」ですね。
釣り雑誌にフィッシングラインに対して結構詳しく掲載した事がありました。その内容です。全部で6回。釣り糸の歴史から現在使っているライン達の成分分析までです。フィッシングラインに対して疑問のある方はこの原稿が役立つかも・・・。面白くない内容ですが・・・。


釣り糸(フィッシングライン)に対しての小考1
:フィッシングラインの変遷

 釣り人は釣り糸で魚と話しまた戦っている。魚と釣り人とを繋がっている唯一の道は釣り糸だ。つり竿は使わないかも知らないが釣り糸が存在しないと「釣り」ができない。
細い「糸」に過ぎない釣り具だからか他の釣り具に比べてその存在価値を低く見る事もあるはずが、釣りに必修的な存在が釣り糸なのだ。
限りなく細い、柔らかい、時には鋼鉄よりも強い力を見せ、巨大な怪魚を上げる。ここには長久の時間の経験と科学技術が解けている。釣り糸は現代科学の寵児に違いないのだ。

釣り糸の登場
 先史時代、人間が動物と違って人間らしくなった時、釣りをしたと言う事は皆に知られている。その証として動物の骨や角を使って作った釣り針が残っている。その骨角器を使い始めた時にも釣り糸が存在したはずだ。当時には確かに獣の毛とか革や靭帯、または植物の繊維質を使った。
実は、我々人間は先史時代と同じ素材の釣り糸を少し前まで使っていた。人工的に作った化学繊維が実生活に広く使えるようになったのは第2次世界大戦の終わった後からなのでやっと60年位になった。ライト兄弟が動力飛行機を作ったのが1903年でもう100年も過ぎた事だが、余りにも有り触れてつまらないと思っている人工繊維はこれより何十年も以後に遅く発明された「最新発明品」なのだ
釣り糸は釣り人の個人的に材料(髪、馬尾毛など)を取って作って使ったが、商品化されたのは1850年頃で見ている。その時のヨーロッパの紡織工場で糸の生産と一緒に釣り糸も作られたと思う。主な素材は麻(リネン)や絹(シルク)だった。東洋、特に漁業の発達している日本でも釣り糸の生産があったと思われるが、麻で作られた「渋糸」と絹で作られた「天蚕糸」に対しての記録がある。
 
絹(シルク)の原料の繭    繭から作った生糸

合成繊維の発明
 先ず、なぜ人間が合成繊維を発明したかを考えてみよう。その主な訳は、確かに「シルク」にあると言っても言い過ぎじゃない。被服材料用の天然繊維の種類は綿(Cotton)、麻(Linen)、毛(Wool)、絹(Silk)があるが、オリエンタル文明が2000年以上の期間も秘密を守りながら独占した事業、西洋文明が持たなかった技術、それは「養蚕」、シルクを作る事だった。東洋と西洋の最大貿易品物は絹製品でその貿易路が「シルクロード」と呼ばれているんじゃないか。西洋世界でシルクの価値を推して考えられる。
綿や麻、毛は短い原料繊維を沢山合わせてまた撚って長い糸を作る。糸車を回す事を考えてみよう。これに対して絹は元より蚕が吐き出す「単糸(モノフィラメント:Monofilament)」、即ち、一筋の非常に長い繊維だ。もちろん実用的な糸や着物用の生地を作るためには沢山合わせて撚らないと糸にならないが、ともかく、そのシルクのモノフィラメント構造の影でシルクには他の繊維では見られない艶と質感を持って特別な大人気の繊維だった。また非常に高価の名品で奢侈品だったのだ。それ故に西洋世界ではシルクが越えなければならない一つの目標になって人工的に作ってみようとする努力があって、それが人工繊維を発展させるきっかけになった。
人間は19世紀末、幾つかの化学繊維を発明し始めて結局1930年代末に最初の完全な合成繊維の「ナイロン」を発明した。これによって人間の被服はもちろん社会全般の姿がその以前とは全然変わった。
合成繊維を使った釣り糸の使用もこの時期を出発点にする。
シルク繊維の電子顕微鏡写真
三角断面にセリシン①とフィブロイン②の構造が見られる
染めたシルクの顕微鏡写真。三角断面のモノフィラメントだ。

現代釣り糸の素材種類
 現代の釣り糸は99%合成繊維で作る。残り1%は無機質の金属で作るワイヤと好みで使うフライフィッシング用のシルクライン位と言うか。
合繊繊維の登場以後、釣り糸の原料はナイロンが主になるが20世紀末にはナイロンの欠点を凌ぐ独特な原料の釣り糸は現れた。合成繊維で作った釣り糸の種類は次の「表」を参考すべし。

一般名    成分名       構造    使用例
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ナイロン   ポリアミド       単糸   道糸・ハリス
      (Polyamide)
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フロロ  ポリビニリデンフロライド   単糸   道糸・ハリス
カーボン (Polyvinylidenfluoride)
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PE    超高分子量       合撚糸     
道糸
     ポリエチレン   (Braided multifilament)
     (UHMWPE)       接合糸
              (Fused multifilament)
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ダクロン  ポリエステル      合撚糸     道糸
      
(Polyester)
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ケブラー  アラミド        合撚糸     ハリス
      
(Aramid)
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フライ  ポリビニールクロライド    -     フライライン
ライン   
(PVC)
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ワイヤ   金属         単糸    道糸・ハリス
                合撚糸

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フロロ  表:ポリアミド     二中構造単糸   
道糸
ナイロン コア:ポリビニリデン  (Cofilament)
       フロライド
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以外  色んな新素材の混紡   合撚糸     ハリス


現代釣り糸の構造別分類:単糸と合糸
*単糸(モノフィラメント)
 普通のナイロンラインのような釣り糸だ。モノフィラメントで「モノ」は「一つ」とか「単」の意味、「フィラメント」は「連続する繊維」の意味だ。だからモノフィラメントは「一筋の限りなく続く糸」の意味を持っている。
釣具屋で普通に見られるナイロンラインやフロロカーボンラインは全てモノフィラメントだ。

*合糸(マルティフィラメント)
 名前の通り沢山の筋を合わせた釣り糸で、細いモノフィラメントを沢山集めて作っているからマルティフィラメントとも呼ぶ。以前、結構使ったダクロン(Dacron)ラインとか最新のPEラインがこの合糸構造だ。しかし、この合糸には二つの種類がある。
①合撚糸(ブレイディッドライン、Braided Line):沢山の細い単糸を撚って作る合糸
②接合糸(ヒューズドライン、Fused Line):沢山の細い単糸を並んで接着して作る合糸

単糸と合糸の構造

しかし、接合糸は殆ど無くなって今は合撚糸が合糸を代表している。なので、フィッシングラインとして合糸と言うと合撚糸(ブレイデッドライン)だと言っても良い。
細い糸を合わせると太い糸一つより遥かに強い力を発揮するなど物理的に性能が変わる。
合撚糸の中で4本の糸を合わせていると4合糸、8本を合わせていると8合糸と呼んでいる。しかし、詳しく見てみるとその細い一つ一つの糸達ももっと細い糸を沢山合わせて作った事が分かる。

ボビンに巻いているPE原糸

単糸を合わせて合糸を作る合撚機

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